13.ISRTを利用したWindowsの高速化 (2018.7.8)

ISRTとはインテル・スマート・レスポンス・テクノロジーの略で、IRST(インテル・ラピッド・ストレージ・テクノロジー)の機能の一部として提供されています。名前が似ているので紛らわしいのですが、後者はハードドライブを複数使用してRAIDを構成し、データアクセスの高速化やデータの安全性を高める技術のようです。どうもインテルのホームページの説明を読んでも直訳的な表現でわかりにくく、やや正確に欠ける解釈かもしれません。なのでこちらは割愛し、前者について解説したいと思います。ISRTは読み出し速度の速いSSDをキャッシュ用に使い、HDDへのアクセス速度を高速化する技術です。最初に補足しておきますが、これはSSDがHDDに比べて極めて高価で、大容量のSSD製品が実現される前の時代のシステム(2012~2013年頃)なので、大容量化と低コスト化を実現した現在では、やや時代遅れの技術にも感じます。ただ、安くなったとはいえ依然として高価な大容量SSDを使わず、安価な大容量HDDと小容量のSSDを組み合わせて高速ドライブを実現できるため、特に古いPCを低コストでパワーアップして延命するのに効果があると思えます。例えるなら、高価な大容量バッテリーではなく、安価な小型の発電機と小容量バッテリーを組み合わせて電気モーターを回す、日産自動車のe-POWERのようなものと言えるでしょう。極めて現実的で実用性の高いシステムだと思います。

そもそも今回ISRTに着目したのは、Windows Vista以降のPCに見られる異常とも思えるHDDへのアクセスにあります。Vistaや7にはデスクトップガジェットにCPUメーターが用意されていますが、これを見ているとCPU的には余裕が十分にあっても、HDDがアクセスしっぱなしになり、処理が停滞して思うようにPCを動かせなくなります。特に起動直後には色々な処理が入り、性能の低いPCでは全く実用にならない程です。初期のXPではさほど頻繁なアクセスは見られなかったのですが、サービスパック3の後期辺りから尋常ではなくなってきました。どうもその頃から重大な問題になってきたセキュリティ関連の処理に原因があるように思います。現在のPCは明らかにセキュリティに処理能力の多くが食われ、本来の性能を発揮できないでいます。その最大のネックになっているのがHDDにあるわけです。いくらCPUパワーがあっても、実作業で体感するのはPCのレスポンスです。HDDの処理待ちで思うように作業がはかどらなければ、確実にストレスはたまります。HDDの処理速度が上がれば、こうした悩みも解決できるのです。

最近では高速で大容量のSSDが安価に供給されるようになったことから、以前に比べてSSDを導入しやすくなりました。記憶媒体全体をSSDでまかなえるようになったことから、ISRTによるハイブリッドシステムも存在意義が薄れ、手軽にHDDからSSDへの置き換えが進んでいるものと考えられます。特にSSDの弱点だった書き込み速度が上がったことで、SSDだけでシステムを構築するのが普通になりつつあります。その方が速度的にも安定性でも有利になったのは確かです。それでもまだまだISRTの優れた点が色あせたわけではありません。破格値となった中古部品を組み合わせて高性能のPCを組もうとする我々にとって、快適な処理能力を得られる1つの方法として大きな魅力があるのです。私もこれまでRAIDは組んだことがありますが、SSDをキャッシュとして使うのは初めてです。どれくらいのパフォーマンスが得られるのか、実際に組んで確認することにしました。

一般的にはHDDとSSD各1基で組むのが普通です。しかし、これだとHDD単体に比べて読み込み速度が劇的に向上しても、書き込み速度はさほど変わりません。読み込みと違ってキャッシュの効果は得られず、HDDの書き込み速度で処理が制限されてしまうからです。そこで今回は更に能力を上げるために、RAID0で組んだ2台のHDDを使い、マザーボード上のmSATAスロットにカード型のSSDを搭載してキャッシュとして利用することにしました。ネットでも複数のHDDを利用した例があまり無いようで、ちょうど手元にそれらの部品があったことからトライしたわけです。効果については、CrystalDiskMarkというソフトで測定して確認したいと思います。システムを構築する細かな方法についてはここでは触れません。概略だけを記載しておきます。

最初にやることはRAID0で2台のHDDを1台のディスクのようにまとめることです。大抵マザーボードにRAID構築の機能が搭載されていますが、私の場合はGIGABYTE製のGA-Z68P-DS3を使いました。ちょうどmSATAスロットも備えていて、今回の目的にぴったりだったわけです。HDDは3.5インチのSATAドライブ、Seagate製の500GBを2台(合計1TB)用意しました。あまり容量が大きくても無駄だし、小さいと処理速度が遅いのが普通なので、そこそこの妥協点というわけです。普通に使用するなら1TBもあれば十分過ぎるくらいでしょう。キャッシュに利用するSSDカードは64GBです。ISRTではこれより大きいサイズのキャッシュは利用できません。注意点ですが、RAIDを組むのはOSのインストール前で、mSATAのカードは念のため外しておきます。OSのインストール時にシステムが利用する領域を確保するのですが、それをSSD内に作らせないためです。BiosでSATAの設定をRAIDに設定して起動すれば、起動時にRAIDに関する情報が表示されます。本マザーの場合はその時にCtrl+IキーでRAID関連メニューに入ることができます。メニュー内で2台のHDDをRAID0に設定します。

●RAID設定
BiosでSATAの設定をRAIDにすると、起動時に表示されるRAID情報。図は既に2台のHDDをRAID0で構成した状態です。

続いてOSをインストールします。適当なDVDドライブを接続して、メディアから起動するようにあらかじめBiosを設定しておきます。今回はWindows7 Pro(64bit)をインストールします。今では少々古いOSですが、昔のOSの形態を色濃く残していて使いやすく、現在もサポートされているので対応するアプリケーションも多く、安心してネットも利用できます。前作Vistaに比べて完成度も高く、タブレットを意識して作られたその後のWindowsよりも、個人的には快適に使用できると思っています。64bitのOSなのでメモリーは本格利用を考慮して16GB搭載しました。本当はXPの方が好みなのですが、64bit版はあまり出回っていない上にSSDを効率良く使用する仕組みも無く、サポートも切れており用途が限られるので除外しました。



●マザーボード(GA-Z68P-DS3)
Z68チップセットを搭載するATXマザーボード。LGA1055スロットを採用するCPUで、ISRTを利用するためにCore-i3~i7から選択します。今回はある程度高い処理能力を目指し、Core-i5 2500Kを選択しました。なお、ISRTを利用できるチップセットは限られるので、あらかじめ調査しておきましょう。

下はマザーボードにセットしたSSDカード。今回はISRTで利用できる最大容量の64GBを搭載しました。


OSをインストールしたらドライバ等をインストールしてセットアップを完了します。一度電源をオフにしてmSATAスロットにSSDカードを装着します。準備ができたら起動してIRST(ISRTはその一部)をインストールします。IRSTはインテルのホームページから入手して下さい。注意点ですが、SSDカードはドライブとしてフォーマットしないで下さい。コントロールパネルのディスク管理であらかじめ領域を開放しておく(未フォーマット)と良いでしょう。ドライブ(例えばDドライブ等)としてWindowsで使える状態になっていると、ISRTによってキャッシュ化するための高速メニューが表示されず、機能を利用することができません。SSDのキャッシュ化は実に簡単です。IRSTを起動するとメニューボタンに高速が現れるので、この中の「高速の有効」をクリックするだけです。

●IRST起動
ソフトを起動すると、SSDキャッシュに対応する場合は高速メニューが表示されて機能を使えるようになります。(図は高速を有効にした状態)
右のビューを見ると、上側に今回RAID0で構成したHDDの情報が表示されています。下側はキャッシュに使用するSSDカードの情報です。

キャッシュが有効になると1度目のアクセスでは速度は変わりませんが、2度目以降はキャッシュの効果により高速化します。実際にHDD単独とISRTによるシステムの読み書き速度をチェックしたのが次のデータです。

●HDD単体の評価データ
HDDとしては比較的高速な部類です。HDDの場合は連続データの読み書き速度は同程度になります。
●HDDでRAID0を構築した評価データ
読み書きの速度が順当に上がっていることがわかります。連続データの書き込み速度はさほど上がっていないようですが、データ処理の最適化が不十分なのでしょうか。読み込み速度が速くなったことで速度アップが体感でき、HDD単体に比べて快適に使用できるようになります。RAID0なら安価で手軽に大容量ディスクが実現できるメリットがあります。ただし、RAID0ではそれぞれのHDDに分散してデータが書き込まれるため、1台のHDDに障害が起きるとデータの復旧は不可能になります。
●ISRTによるSSDキャッシュを利用した評価データ
4Kバイトのランダム読み込みで劇的な効果が得られます。書き込みに関しては特に効果は見られません。実際の使用では細かなデータの読み出しが多いので、Windowsの起動も含めて何をするにも速度アップが体感できます。高速SSD単体程の効果は得られないものの、普通に使用する分には実に快適に使えるようになります。

今回の実験でISRTの実用性を十分に実感することができました。全て中古部品で組み上げているので、低コストで費用対効果は極めて高いと思います。




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