25.SONY DTC-790 -DAT- (2016.6.16)

DAT末期の中堅機。

DATとはデジタルオーディオテープの略で記録メディアの一種です。それ自体はカセットテープを少し小さくしたようなデザインで、DATを使って録音・再生を行うのがDATレコーダーです。これにはVTRの技術が使われています。大量のデジタルデータを記録しなければならないので、テープへの記録密度を上げるためにVTR同様ヘリカルスキャン方式(ヘッドがテープを斜めにスキャンする)を採用しています。カセットからテープを引き出してヘッドドラムに巻き付けるわけですが、構造を単純化するためにベータではなくVHS方式に似たローディング機構をしています。規格が制定されたのが1987年ですから、まさにVTRの黄金時代で日本の家電が世界を席巻した時期と重なります。

デジタルオーディオは、その後登場したディスクメディアのMDや、MP3等の高圧縮技術によって生まれた半導体を使った携帯音楽プレーヤーの普及によって終焉を迎えます。しかし、精緻なメカトロニクス技術に加えて、アナログとデジタルの技術を駆使した高音質サウンドは今でも色あせることは無く、オーディオファンの間で根強い人気を誇っています。

一時は憧れのオーディオであり高嶺の花だったDATですが、末期の頃にはVTR同様に激しいコストダウンの波にさらされて、次第に陳腐な製品となっていきました。本機もそんな中の1台だったと言えるでしょう。価格こそ75,000円と高価な部類ですが、中身を見れば愕然とするような内容です。

●内部
本機の内部は簡素化されてスカスカの状態です。カセットデッキやCDデッキも末期は同じような状態でした。集積回路の高密度化等で部品点数が減るのは自然の流れですが、それにしてもあまりに簡素で拍子抜けです。簡素化の恩恵でメンテナンス性は良さそうに見えます。

パッと見でも電源(基板の左上)は簡略化され、集積化が進んだ基板は部品点数も驚くほど少なくなっています。コンパクトにまとめれば、恐らく手の平にも乗りそうです。それだけこなれた結果とも言えるわけですが、デジタル部はともかくアナログ部は確実に性能が低下しているはずです。

メカ部に至ってはコストダウンもここまでするかと言う実例です。金属フレームはプラスチック化され、強度や精度が必要な部分以外はプラパーツが多用されています。経年劣化でブッシュやローディングアームのガイド等にはヒビや破断が現れ、恐らく現存機の中でまともな状態にあるのは皆無でしょう。よくSONYタイマー等と揶揄されますが、10年も経過したら確実に壊れる設計がなされているのがよくわかります。商業主義に流されて、モノづくりの原点を見失った製品こそ哀れでなりません。

●デッキメカ
これがメカの全貌。シンプルで完成度は高いようですが、明らかに安っぽく見えます。特にプラスチック部分は華奢に出来ており、ローディングモーター部分もぐらつくような状態です。少し力を入れて触ったりすると、簡単に壊れてしまいそうです。

激しくコストダウンされたとはいえ、全体的な性能は一定の水準にあり、音質もDATならではの優れたものです。現在の圧縮技術に支えられた携帯音楽プレーヤーの音質とは一線を画していると思えます。上手にメンテナンスして丁寧に扱えば、まだまだこの先も十分に活躍できる存在です。実は私自身はこれまでDATを扱ったことはありませんでした。学生時代はオーディオに凝ったものの、社会人になってからはほとんど関心が無かったからです。最近になってカセットデッキやVTR等に再び興味が移り、その延長線上にDATもあったわけです。おかげでメディア等も新たに入手する必要が出てきましたが、VTRと違って現在でも通用するオーディオだけに希少価値となって高価です。

ここで本機の概略を紹介しおきましょう。2D.D.+リールモーターメカニズムを採用しており、A/D変換部には1ビット方式のモジュレーターを内蔵したパルスA/Dコンバーターを搭載。SCMS(シリアルコピーマネージメントシステム)に対応しており、CDソフトなどをマスターとして一世代分に限りデジタル→デジタル録音可能(アナログ入出力端子のみを使う場合、SCMSの制限を受けずに繰り返し録音できる)です。アナログ入力による録音では、従来の48kHzモード(標準)、32kHz・LPモードに加えて、新たに44.1kHzモードを搭載。これによりCDフォーマットと同一の録音が可能になります。デジタル・フェードイン/アウト機能を使えば、1秒から15秒の範囲でフェード時間を設定。更にポーズ機能と連動しており、DATテープをマスターとしてコンパクトカセットへ編集録音する際にも活用できます。

当時、CDからのデジタルコピーが問題視された時期で、この頃になってようやく規格がまとまりデジタルの一世代限りのコピーが可能となりました(それまでは不可能)。この問題はDATの普及の大きな障害になったと思われます。また、オーディオとして扱うにはデッキの小型化も困難で、取扱いの簡単なMDやCD-R/RWが普及するに従い、DATの魅力は薄れていったようです。世の中の流れは極限の音質にこだわるよりも、手軽に扱える方向へとシフトしていったのです。優れた音質を誇ったDATも、一般コンシューマーから見れば一部のマニアの産物にしか映らなかったのかもしれません。

そしてもう1点問題があるとすれば、この時代の多くの優れた精密機器を廃棄物へと追いやる、表面実装型の電解コンデンサの劣化です。本機の場合は、RFアンプと呼ばれるヘッドと直結する信号処理回路に使われています。電解物質の品質が問題なので、経年で必ず劣化することになります。残念ながら部品を交換する以外に救う方法がありません。今回入手したものは比較的新しい製品のせいか、端子を見ても噴いている痕跡は見られませんでした(2台実績中2台共)。もしかすると改良された電解物質が使われているのかもしれません。交換すべきか迷うところです。

●RFアンプ
C1はこの基板ではチップコンデンサが使われていますが、恐らくこれは改良型です。ここにも表面実装型の電解コンデンサが使われていました(合計6個)。写真ではわかりにくいですが、端子には既に液漏れした痕跡があります。放っておけば確実にパターンや他の部品を破壊します。そもそも耐圧が6.3Vと余裕が無いのも問題だと思います。

もう1点ゴムベルトを使う製品の宿命と言えるのが、経年劣化によるベルトの伸びや変形です。本機のトレイ部にもゴムベルトが使われいて、劣化するとトレイの開閉に支障をきたします。ほんの100円程度の部品(原価なら10円程度でしょう)の劣化で故障となるので、メーカーも何らかのメンテナンス手段を用意すべきでしょう。初期の劣化なら、ベルトやプーリーを洗浄後にベルトをかけ直せばしばらく延命できます。変形は小さい方のプーリー接触部分で起きているので、それをずらすことで機能を一時的に回復するわけです。ゴムベルトを使う全製品で通用することなので覚えておくと良いでしょう。

それ以外にも本機特有の問題があります。前述したようにコストダウンの弊害がもろに現れ、メカが劣化して確実に故障を招く段階に来ています。

●プラスチックブッシュの劣化
ローディングアームを動作させるギアのブッシュが劣化し、ひどい場合には脱落しているものもあります。ギアが浮くとローディングが正常に行われないので、停止して表示窓にCAUTIONと表示されます。そうなると一切の操作を受け付けません。

実際にブッシュの1つに触れたら簡単に取れてしまいました。よく見ると端が割れていたので、とりあえずネジロックで固定しておきました(写真の青く見える部分)。

●メカ駆動部(ブッシュに着目)
同じブッシュを使った部分は同様の劣化が懸念されるので、安全のためにネジロックで補強しておきます。写真では基板を起こしていますが、実際には手前に倒れた状態で上部側ユニット(写真は上下逆になっている)と接合します。中央やや上に見えるのはリールで、全体が下側ユニットを形成しています。リールブロックの左に4個の歯車が見えますが、右中央に位置する白の歯車がグリスで固着してローディングアームの動作を妨げます。その影響でローディングが不完全となり(見た目は完了したように見えるが)、キャプスタンは回転してもリールは回転しない状態になります。結果的にテープがたるんで、最悪は折れ曲がったりして破損するわけです。

こうした行き過ぎたコストダウンは、結局のところ売れない(=儲からない)から起きるもので、それがまた製品の信頼性を損ない益々売れなくなる悪循環を招きます。バブル以前はそれでも信念を持って良い製品を作ろうとする気概がメーカーや技術者にもありましたが、バブル以降はどうも目先の利益ばかりに走る傾向が強くなったと思えます。時代の流れと言ってしまえばそれまでですが、以後は現在に至るまで、その傾向は益々顕著になっています。それだけ市場の競争が激しくなったとも言えますし、経営者の視野と懐が狭くなったとも言えます。いずれにせよ日本はもう二度とバブル以前の頃には戻れません。そして、この先も次々に革新的な製品を生み出さなければ未来もありません。製造業はこれまでにも増して苦難の時代を迎えることになるでしょう。




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