22.三菱 HV-S11N -VTR- (2016.2.16)

これぞバブルの申し子、超弩級ビデオデッキ。

三菱電機の最高峰VTRと言えば、1990年発売のHV-V7000でしょう。定価35万円は価格的にも最高クラスで、その外観はもはやVTRと言うよりも高級なオーディオ機器です。その流れを汲んで1991年に発売されたのが、今回取り上げるHV-S11N(ブラックモデルのS11も有り)です。定価は18.5万円とやや控えめですが、銅メッキを施したベース(なんとビスまで銅メッキ品)にメカと電源を浮かしたフローティングサスペンションメカニズムを採用しており、まさにバブルの申し子と言ってよい超弩級VTRです。とにかく重量が12kg程もあって安定感抜群です。メカブロックが映像や音声回路基板から浮いた(独立した)状態にして、駆動による振動等が回路に悪影響を及ぼすのを低減しています。正直なところここまでするか・・・と言った感じです。実際のところ、このサスペンションにどれほどの効果があるのか疑問ではありますが、それでも視覚的に与えるインパクトは大です。VTR末期のオモチャのようなメカとは正反対に、贅を尽くしたバブルそのものを反映しているような逸品です。

●底面のサスペンションメカ
本機の最大の特長であるフローティングサスペンション。底面は豪華な銅メッキ板です。写真では下側がフロント側になり、中央前寄りに3点支持のサスペンションがあります。まるで三菱のマークを象徴しているようなデザインです。この上にメカが乗っていて、本体からは完全に浮いた状態になっています。メカベースとサスペンションを支えるプレートはいずれもアルミダイキャストで、これでもかと言わんばかりに物量を投入しています。中央後部のインシュレーターは電源トランス用で、これも本体から浮いた状態です。徹底して不要なノイズや振動を電気回路に伝えないようにしているわけです。

本機はずいぶん前にも一度手にしたことがあります。もしかすると記憶違いでHV-V6000だったかもしれません。手持ちのビデオコレクションをデジタル化する目的で入手したものの、残念ながら動作せず修理もできないまま放出してしまいました。結局デジタル化にはD-VHS機を使ったのですが、本機のインパクトが非常に大きかったので、今回再度の登場となったわけです。あれからずいぶん経つので、残っている機種もかなり劣化が進んでいると思わます。修理が必須となるのは言うまでもありませんが、果たしてどんな結果になるのやら、やや不安な面持ちで進めたいと思います。

本機の場合、まずは電源を確認する必要があります。電解コンデンサが大抵やられているからです。実際入手機も電解コンデンサがいくつか吹いており、他の部品までも巻き添えになって腐食しているような状態でした。ただ、電源が数秒で切れる故障とは直接関係無いことが判明し、とりあえず不具合のある部品を代替品で交換しておきました。

次に底面のサスペンションや板金を取り除いてメカの底を見たところ、キャプスタンベルトが伸びきって全く用を成していませんでした。先に紹介したNV-BS900やSLV-RS1等では、駆動用に突起の付いたタイミングベルトが採用されていましたが、本機は普通の角ゴムベルトでした。耐久性を考えた場合、設計としては片手落ちもいいところです。個人的には得体の知れないサスペンションよりも、よほど重要な部品だと思うのですが。嘆いていても仕方無いし保守部品の入手も不可能なので、とりあえずベルトはバンコードで作って代用します。かなり力がかかる部位なので、代用ベルトではやや心もとないのですが、どうにか実用には差し支えないようです(これが後で問題に・・・)。

メカで最大の問題だったのはグリスの固着です。あまり品質の良いグリスで無かったのか、経年によりあちこちでガチガチに固まっています。本来であれば分解洗浄しなければならないところですが、へたに分解してギアの位相が狂ったり、細かな部品が破損・紛失したら大変です。拭き取れる所はなるべく掃除し、新たにグリスを塗布できる部分だけに追加するにとどめることにした。特にスライドする板状の部品がひどく、最初は固まってほとんど動かない状態でした。それでも何度も繰り返し手動でスライドさせるうちに、徐々にスムーズに動くようになってきました。

この状態で仮組みしてテープをセットすると、ローディングが行われ再生動作に入るようになりました。しかし、ピンチローラーがキャプスタンに密着せずテープを送りません。ただし、同ローラーを手で密着させてやれば、正常に再生してTVに画像を映し出しました。ところが何回か手で補助して動かしているうちに、カセットが下に下りてもテープを引き出す動作をしなくなってしまいました。しかも、うまくテープの排出もせずに電源が切れてしまいます。原因はキャプスタンベルトが滑っているせいだったのですが、この時点では特定できてはいませんでした。

●デッキメカ
メカを上から見たところです。ベース自体も堅牢なアルミダイキャストで作られており、それを更にフローティングサスペンションの台座(アルミダイキャスト)が支えています。とにかく頑丈な作りで、この時代はカセコン(カセットを入れるハウジング)もしっかり作られていました。キャプスタンベルトやピンチローラー等のゴム部分の劣化が無ければ、相当長期に渡って使えるところです。
●ピンチローラー付近
駆動系の位相がずれるとキャプスタンにテープが密着しなくなり、テープの走行不良を起こします。VTRではギアやアーム等の位相(位置関係)が厳密に決められており、それがずれると正常に動作しなくなります。位相を合わせやすくするために目印となるような刻印などがありますが、素人ではなかなかそれがわかりません。ネットでの情報が大きく役立ちました。

ピンチローラーに関しては、移動させる支柱の回転位置がずれているのが何となく予想できたので、正しい位置にセットし直すことにしました。この部分のユニットは軸の上部にリング(Eリングとは異なる)がはめてあり、取る方法が最初わからなかったのですが、何のことは無く軸にはまっているだけでした。マイナスドライバをリングの端の部分にひっかけて、軸の上部をてこにして上に持ち上げれば簡単に外れます。一端ユニットを個々の部品レベルで外して再度セットし直しました。ギア等には位置決め用の穴や印があるので、それらを合うように位置決めしなければなりません。闇雲に試して部品を破損させてもいけないので、ネットで色々検索してそれらしい写真を元にセットを行いました。

これでピンチローラもきちんと動くはずなのですが、前述したようにキャプスタンベルトの滑りを無くさなければ動作しません。再度下側を分解してもう少しきついベルトをバンコードで作りセットしました。寸法に関してはアバウト(長さ27センチ位)なので、できればきちんと合う角ベルトを入手したいものです。簡易的なものながら、とりあえずこれでメカがきちんと動作するようになり、めでたく再生画像を表示するに至りました。さすがにバブルデッキだけのことはあり、画質も音質も一級品です。眺めているだけでも満足できる逸品なので、今回もコレクションに加えることにしましょう。

<補足>
その後、S-VHSテープの再生チェックをしたところ、映像が正常に表示されないことがわかりました。これはS-VHSの信号処理回路上のHICの問題の可能性が高いと見て、基板上の表面実装電解コンデンサを交換しました。

●HIC
これが本機に搭載されているHICです。本体の向かって左側上面の基板内に付いています。写真の右の方に表面実装電解コンデンサがあります。明確な液漏れは確認できませんが、写真でもわかるように端子部分に腐食が見られた(くすんで変色)ので交換しました。ハンダごてでは外しにくいので、ニッパーで円筒部分を切り取り、プラスチックの台座を取り去ってから、残った端子をハンダごてで除去します。液漏れしていると、加熱時に独特の嫌な匂いがするのでわかります。
●コンデンサ交換
実装されているのは22μFでしたが、手持ちが無いので47μFで代用しました。Panasonicのデッキと違って1個だけなので助かります。場所も作業しやすいので、HICの基板を外す必要もありませんでした。

交換後にS-VHSテープの再生も正常になりました。パソコンやこうしたハイテク家電では、電解コンデンサの不良による故障は桁違いに多いと感じます。それだけ部品にかかる負荷も高いのでしょう。一時期、台湾製の電解コンデンサの品質不良で、パソコンが軒並み故障して大問題になったことがありますが、そうでなくても弱点になりやすい部品だと言うことがわります。特に高クロックで動作する最近の機器では、製品寿命にも大きく関わるキーデバイスです。




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