21.SONY SLV-RS1 -VTR- (2016.1.20)

ベータからVHSへ、ソニーの底力を見せた高性能デッキ。

ソニーは元々自社開発によるベータマックス方式のビデオ陣営でしたが、VHSとの熾烈な競争に敗れてからはVHSにも参入しています。技術的には先行して開発されたベータマックス方式の方が優れていたものの、販売戦略でVHS陣営に負けたのは有名な話です。VHS対ベータマックスの対立の構図は開発時の因縁にまでさかのぼり、同社にとっては苦い黒歴史となっています。しかも敗者となって敵の軍門に下ったことは、これ以上ない屈辱だったに違いありません。

ソニーはその後8ミリビデオでVHS-Cに勝利しましたが、VHSの分野でもその底力を発揮して高性能なVTRを送り出しています。その1号機がSLV-R7であり、高級感溢れるデザインと優れた性能で王者の意地を見せました。SLV-R1はその流れを汲むVTRで、コストダウン化により色々な面でやや控えめな内容となっています。それでも画質・音質共に一級品で、更に快速動作のマッハドライブと呼ばれるメカにより、総括すれば先に掲載したNV-BS900(BS録画王)と肩を並べるVTRと言えるでしょう。

入手したSLV-RS1はメカ的には正常動作するものの、画像はノイズだらけで垂直同期がずれた状態でした。このような症状はヘッドの磨耗や破損で起こる場合が多いのです。ルーペでドラムシリンダー内に並んでいるヘッドを見ると、一部のヘッドのギャップ部分に何となく違和感が見られました。しかし、破損しているわけでは無いので確信が持てず、気にはなったのですがとりあえず保留としました。

他の原因としては、サーボ回路か映像処理回路に問題がある可能性も疑われます。念のため別途入手した同型機(音声だけで映像が出ない/ヘッドドラムのフレキ断線)の基板とを取替えながら確認したのですが、残念ながら症状の改善は見られませんでした。このクラスのVTRは何枚にも基板が分かれており、複雑な構成になっているので分解するのも大変です。決してメンテナンス性も良いとは言えず、できれば分解などしたくは無い代物です。結局、関係がありそうなブロックに原因が無いことがわかり、最後に行き着いたのは最初に疑ったヘッドでした。あいにく確認用の同型機のものはフレキが破損しており、ドラムを丸ごと交換することができず、ヘッドが付いているアッパーシリンダーのみを外して交換する必要がありました。ヘッド自体はシリンダーにミクロン単位の精度で固定されているので交換は不可能ですが、アッパーシリンダーごとならそれほどシビアではありません。最後の手段として交換を実施しました。

●ヘッドドラムの分解
ヘッドドラムからアッパーシリンダー(左)を外したところです。写真では見えませんが、アッパーシリンダーの下側に映像・ハイファイ音声用ヘッドが固定されています。ローワーシリンダー(右)中ほどからリード線が上に出ており、アッパーシリンダー上の基板にハンダ付けされているので、分解するにはまずはそのハンダを外す必要があります。両シリンダーはビス2本で固定されているだけなので、ハンダさえ外せば分離するのは簡単です。

ローワーシリンダーの下にモーターがあるのですが、シリンダーは回転するのでそのままでは信号を取り出せません。そこで電磁誘導を利用して非接触で信号を取り出すようになっています。

●マッハドライブメカ
メカ全体を上から見たところです。ベースにはアルミダイキャストが使用されていて、安定した高精度のメカを実現すると共に不要な振動を抑えています。VTRのメカもコストダウンでオモチャ化するまでは非常に堅牢な作りがされていました。

写真では左(VTR正面)からカセットを装てんします。VTRではカセットをローディングモーターで自動的に内部に引き込み、下に移動する機構が一般的です。セット位置に達すると2本のアームがテープを引き出して回転ドラムに巻きつけます。ローディングモーター(写真下)とヘッドドラムの中間辺りにキャプスタンとピンチローラーがあり、テープを定速走行させます。テープの経路には消去ヘッドやノーマル音声用ヘッド、バックテンションローラー等が配置されています。特殊再生を行ったりテープの頭出しのためにハーフローディング(機種による)でテープを走行させる等、初期の頃からすると更に複雑な機構になっています。

テープを駆動するためのリールにはブレーキも用意されていて、高速回転するリールを確実に停止させます。早送り・巻き戻し等でテープをより高速かつ安全に駆動できるように、高精度の制御が行われているわけです。

本機のような高級機は、キャプスタン駆動にNV-BS900同様の突起の付いたタイミングベルトを採用しています。経年でも性能を維持するための配慮です。個人的にはコスト優先で削ってはならない重要部品だと考えています。

なお、正面から見てヘッドシリンダーの右奥に、ヘッドをクリーニングする円柱状の部材があります。ところが経年でボロボロになっていたので、アームごと除去しました。へたに残すとヘッドやシリンダーを痛める原因になるからです。

●昨今の標準的なメカ
コストダウンの果てに採用されている昨今のVTRメカ。写真は東芝のVHS付きHDD/DVDレコーダーRD-W301のものです。他のメーカーも似たようなメカなので、恐らく同一メーカーからのOEMなのでしょう。

ベースはただの鉄板で、剛性など望むべくもありません。ブレーキメカ等もおおいに簡素化されていますし、カセコン(カセットをホールドする部位)に至っては、まともに保持する枠すら無く、すぐに壊れそうな華奢な作りです。実際、丁寧にカセットを入れないと正常にローディングされなかったり、壊れて中に入らなくなります。カセットデッキの末期に見られたメカと同様で陳腐化しています。

粗末なメカながら、TBCや3DNR等のデジタル技術を駆使することで、再生画質(ソフト等の良質な録画状態のもの)はヘタなバブル機よりも良いくらいです。しかし、自己録再をすると状況は一変します。特に鮮明度が劣化して、標準モードがまるで3倍モードで録画したかのようになります。そこにはかつて栄華を誇った国産VTRの面影はもはやありません。

結果的にヘッドドラム交換により再生画像が正常になりました。最初ににらんだ通りヘッドの劣化によるものだったので、途中の基板交換作業は全くの徒労でした。へたをすると分解途上で逆に壊してしまうリスクもあったわけで、今回はたまたま修理が成功したので良かったわけですが、やはりVTRの修理はリスクが高いと改めて感じました。

修理後の再生画質を見る限り、本機は画質・音質共にまだ十分なレベルを維持しているようです。25年もの歳月が経過していることを考えれば、本当にたいしたものだと感心します。電源部のコンデンサを始めとして各部の劣化は確実に進行しているので、この先どれだけ稼動できるか全くわかりませんが、少なくとも動く間はメンテナンスしつつ大事に使っていきたいと思います。




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