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20.Panasonic NV-BS900 -VTR- (2016.1.20)
バブル期を飾った代表的な家電と言えば、メカトロニクスの技術を駆使して作られたビデオテープレコーダー(以下、VTRと略称)でしょう。カセットデッキのメカも相当複雑なものでしたが、VTRに比べれば遥かに単純です。何しろVTRはカセットからテープを引き出して高速で回転するドラムに巻きつけ、テープを斜めにヘッドがスキャンしながら磁気情報を読み取って(録画では記録)いくのです。複雑な機構に加えて、ミクロン単位の精度が要求されるのは言うまでありません。しかもスローやサーチ等の特殊再生を行ったり、テープに深層記録を行うハイファイ等、様々な技術が凝縮されています。特にバブル期には高性能・多機能な超高級デッキが次々に作られ、まさにビデオデッキの黄金期が花開いた時期でした。恐らく当時のような状況は今後も二度と訪れることが無いでしょう。 栄華を誇ったビデオデッキも、バブル崩壊後には通常のVHSやS-VHS機はコストダウンに次ぐコストダウンでどんどん質が低下し、時代はW-VHS(アナログハイビジョン)、更にD-VHS(デジタルハイビジョン)へと移行して行きます。しかし、既に磁気テープに記録する方法は終焉に来ており、HDDレコーダーの登場によりVTR時代は幕を閉じることとなりました。それでも2000年代初頭までは細々と作り続けられていましたが、高級路線のD-VHS以外はもはやオモチャに毛の生えたようなメカに、デジタル技術を駆使することでかろうじて最低限の品質を保つ状況でした。その延長で、現在でもHDDレコーダーにVTRが付いているものがありますが、もはやオマケ程度でしかない代物です。それでもデジタル技術によって再生では高画質を実現しています。しかし録画となると話は別で、標準画質でもバブル期のデッキの3倍モードにも及びません。 さて、前置きはこの位にして、本題であるNV-BS900の話に移りましょう。本機はバブル末期に登場した高性能デッキの1つです。バブル期の高級路線では価格的に上を見ればきりがありませんが、ジャスト15万円のNV-BS900は民生用では性能面でも多機能さでも最高クラスの水準にありました。その自信の表れが「BS録画王」のネーミングです。画質・音質ではもちろん定評がありましたが、更に新快速メカと呼ばれる高速駆動メカで快適に扱えます。テープは巻き戻しや早送りに時間がかかるので、すぐには目的の部分の頭出しができません。その時間を短縮してくれるのが本機のメカです。しかもテープに過大な負荷がかからないように、スピードコントロールやブレーキングが精密に制御されています。通常は平ゴムベルトでキャプスタンを駆動するところを、突起の付いたタイミングベルトで駆動しており、長期間に渡って安定した走行を維持するよう配慮されていました。おかげで25年も経過した現在でも、メカが健在な個体は数多く残っています。
入手機の状況ですが、やはりメカ的には特に問題は無いようでした。巻き戻し・早送り・再生・録画の他に、特殊再生等も正常に動作しています。経年で汚れ等は蓄積していましたが、さすがに定評あるメカだけのことはあります。しかし、再生時の色合いが変で、肌の輪郭等が橙色で、赤も濁った感じになっていました。映像処理回路のどこかに異常がある(或いは調整が狂っている)のは間違い無いのですが、それなりの知識や測定器が無いと調べるのは困難です。そこで別のジャンク機を入手して基板を取替えながら大まかに確認することにしました。こちらは起動後最初のうちは再生映像がノイズで乱れて判別できない程でしたが、温まってくると正常になるものです。恐らくキャプスタンかドラムサーボ回路に問題があるのでしょう。その機体から基板を拝借すると、向かって右の基板の交換で正常に表示するようになりました。基板構成からビデオ信号処理基板なのは間違いなく、やはりそのどこかに不具合があった模様です。 これで一応動作は問題無くなったものの、実は本機は致命的な弱点を抱えています。搭載されているS-VHSの回路に使われているHIC(ハイブリッドIC)上のコンデンサが劣化し、電解液を吹いて機能不全に陥るのです。症状としては全く画像が出なくなるようで、最終的には電解液が基板をも腐食させることになり、過去にメンテナンスされていなければほぼ確実に修理不能になります。本来なら予防的に全てコンデンサを交換しておくのが安心なのですが、作業に失敗すればそれで終わりになってしまいます。今更そこまでするのも面倒なので、とりあえず問題無く動作していることから現状のままとしました。
余談ですが、Panasonic製の純粋なS-VHS機で最高峰と言えば、バブル真っ最中の1989年に登場したNV-V10000です。当時の定価でなんと41万7000円と言うから驚きです。超弩級の筐体にあらゆるVTRの機能が詰め込まれています。あの時代だったからこそ究極の贅沢を目指すことができ、歴史に残るような優れた製品が生まれたのでしょう。今でこそバブル期は汚点のように語られますが、あながち悪い事ばかりでは無かった好例と言えます。
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