■個人出版のススメ

KDPでは印刷データ作成ルールが厳密に決められています。データをアップロードする際に自動で、その後もスタッフによる人の手での審査が行われ、ルールに沿ったもののみが出版許可となります。逆に言えば、何らかのルール違反があると出版できないわけです。実を言うと私の提出したデータにルール違反の箇所が見つかり、修正を求められる事態になりました。印刷ルールで一番問題になるのが、ページの外側に位置する裁ち落としの処理です。印刷物は印刷の際にも裁断の際にも微妙にズレが出ます。印刷の知識がある人には分かると思いますが、裁断のズレは最大と最小の範囲があるため、両方を示すトンボと言う印が印刷紙の四隅に入っています。そのため、範囲内に印刷部分がある場合には、そこにもデザインを書き足す必要があるわけです。そうすれば裁断でズレが出ても、途中で印刷が欠けたりして紙の白地が出ることが無くなります。また、裁断に近い外側(小口と呼びます)の部分に文字を配置すると、端に寄って読み辛くなるという問題が発生します。場合によっては印刷ズレ等が重なって、文字が欠けたり文章が途切れる可能性もあるわけです。従って、端からある程度距離(余白)をとって内側にコンテンツを配置しなければなりません。一方で、ページ内側(ノドと呼びます)は綴じることによって折り目に近い部分に読みにくいエリアができてしまいます。特に無線綴じと呼ばれる背側を接着剤で綴じた形態では、このエリアが結構大きくなるため、その部分にコンテンツが入らないように、やや外側に配置する(内側に余白を取る)必要が出てくるわけです。この部分はページ数や紙の厚さによって変化するため、計算式によってあらかじめ範囲を想定できます。

まとめると、印刷では裁ち落とし、外側と内側のマージンが大切で、KDPではこれを厳密に定めているわけです。しかし、外側や内側のマージンは文字が主体のルールなので、図版やコミック等では必ずしもマージンが重要とまでは言えません。著者の意図も絡むため尚更です。今回はまさにそうした部分で、私の冊子データがルール違反の指摘を受けたわけです。裁ち落としに関しては印刷欠け等の問題が出ることから修正に応じ、マージンも可能な範囲で修正をかけました。最終的に許容範囲からは若干外れるものの、個人的にはズレが出ても問題無いレベルに収まったと判断したわけです。しかし、いくらこちらが現実的には問題無いとサポートに主張しても、KDPとしてはルールだから認められ無いの一点張りでらちが明きませんでした。そもそも著者がそれで良いと言っているのに、なぜ出版代行に過ぎないKDPが強行にルールを押し付けるのでしょうか。

確かに一定のルールは必要ですが、何が何でもルール内に収めなければならないとするKDPの姿勢には大いに疑問があります。ルールと言ってもあくまでもKDPが定めたもので、世間一般の恒常的なルールではありません。更に言えば、ルール違反によって物理的に印刷できないわけでも裁断できないわけでも無く、前述の問題もクリアできていると思われることから固執する根拠が希薄です。アップロード時の機械判定ではOKにも関わらず、審査する人間は1ミリたりとも違反は許さないと言うスタンスなわけです。何回かアップロードしたところでは審査にパスする場合もあって、担当者によって(?)結果が異なるのも困りものです。可否を自身で確認するためにも、少なくともテスト印刷くらいは許可して欲しいものです。仕方無いので他に印刷物を出版する手段が無いかと調査したところ、現在ではオンデマンド印刷のサービスが多数存在する実態がわかりました。どうやらKDPに固執する理由もさほど無さそうです。

昨今ではSTORESのように個人でもオンラインショップを気軽に開ける時代なので、大手の販売者に寄り添う必要はありません。SNS等を通じて個人的に売り込む道も開けているため、一般人にとっての可能性はむしろこちらの方が優れていると言えます。そのため、まずは個人的なオンラインショップでの販売を主体に考えてみるのも良いのではないかと思えるのです。広く流通ルートに乗せるのはその次の段階です。ところが、それも今では個人でISBNと呼ばれるコードを取得すれば、広く販売できる可能性が出てきました。ISBNは数多の書籍の中からタイトルを特定するためのコードで、これを取得することで世界に1つのタイトルであることを証明できるわけです。1タイトル、10タイトル、100タイトル分と言った単位でISBNを購入でき、コストもさほど大きくはありません。個人的には10タイトル分(2万円+税)がコストパフォーマンスが良いと考えています。自身が出版元として販売もできるため、仮想出版社として活動できることにもなります。私の場合は「COSMOLIGHT」と言う出版社として活動することも視野に入れ、更なる検討を進めるつもりです。

最終的な目標は書店等に卸して広く販売を行うことですが、これにはISBNに加えてJANコートが必要になります。書籍に印刷されるバーコードが主体で、発行元等を特定する重要な情報です。これが無くても書籍の販売はできますが、例えばお店のレジでバーコードを読み取って自動的に売り上げとして計上したり、簡単に発注するすることができません。そうなると煩雑な手間がかかるため、実質的に書店等では販売できないことになります。一般のオンラインショップ等でも同様です。従って、STORES等を利用した自身のネット販売以外では、必須と言っても過言ではないでしょう。JANコードを得るためには事業者としての登録が必要です。費用は事業規模によって異なり、年商1億円未満は16500円(税込)です。有効期間は3年間なので、3年ごとに更新が必要です。また、登録内容に変更が生じた時にも、改めて手数料を払い登録しなければなりません。これを高いと見るか安いと見るかは個人の主観によります。執筆・出版が趣味の一環だとしても、私自身は妥当な額ではないかと考えています。

なお、JANコードを記したバーコード自体は個人でも作成できるし、専門業者に依頼して作成してもらうこともできます。費用を極力抑えるなら自分で作成した方が良いでしょう。いずれにせよ出版とは別に費用が発生することから、一般のオンデマンド印刷(業者によって大きな価格の開きがあり、過渡期を象徴していると思います)を利用したとしても、現状ではamazon(KDP)を利用した出版の方がコスト的には安くなるようです。そう思いつつ次々業者を当たってみたところ、ついに見つけました。安価に出版できる道が。それが、
製本直送.com
です。恐らく価格は業界最安値と思える内容で、サイトの作りも大変丁寧です。非常にわかりやすく構成されていて、初めての利用にも何もとまどう点はありませんでした。KDPでは山のようなルールが分散して記載されていて、煩雑で何が何だかわからないようなものでしたが、こちらは適切にコメント等が用意されていてたやすく理解できます。面倒なルール(一般常識は除く)など一切無く、著作者重視の姿勢にも好感が持てます。販売代行サービスも展開していて、その際の手数料は出版者が定める販売価格のわずかに15%で、60%ものロイヤリティを課すKDPとは大違いです。更に素晴らしいのは、姉妹サイトで上述したISBNとJANコードのセットを4180円(税込)の格安で提供してもらえること。JANコードの登録の際は住所や電話番号等のプライベート情報がオープンになってしまうため、法人で登録する人以外にはとてもありがたいわけです。しかも、こちらでは販売代行までも請け負うサービスを展開していて、まさに至れり尽くせりの内容となっています。これから広く一般に浸透して欲しいと思うサービスです。

発行(印刷)部数が大量になるとオフセット印刷等を利用した方が単価が安くなるため、その時は改めて検討すれば良いことです。こうしたステップを踏むことで、個人出版は我々のすぐ手が届く領域となりました。私の他にもコンテンツを発表したいと考える方は大勢いると思いますので、ぜひともトライしてみてはいかがでしょうか。一方で、冊子を作るためにはデザインや構成等の様々な知識や経験が必要です。一人でその全てをこなすのはなかなか大変なことです。そこで、同じような目標を持つ人達が集まって、共同で制作するのも1つの方法です。その方が各人のスキルを活かすことで、スムーズに準備を進めることができるでしょう。制作スタイルは各人各様だと思いますが、多くの人が参加することで出版業界の裾野が広がり、これまでは大手中心に寡占状態だった業界にも新たな息吹が吹き込まれることでしょう。皆さんの健闘を祈ると共に、私自身も更にスキルを磨いてより良い書籍作りに努めたいと思います。

<追記>
製本直送.comで作成した冊子について、その感想を追記したいと思います。1点は精度的な問題で、本来の経ち落とし線よりも数ミリ内側で裁断されているようでした。そのため、1ヶ所で文章が切れて見えない箇所があり、もう1ヶ所で文字が欠けていることが判明。本来は内トンボ(PDF出力ではトンボ無し)より2ミリ程内側なので問題無いはずでしたが、予想以上にズレている感じです。やはりレーザープリンタではさほど精度は出ないようで、この部分は修正の必要がありそうです。それ以外は概ね問題無く仕上がりは上々でした。もっとも、そもそもがこんなギリギリで制作するのは好ましく無いわけで、新たに制作する場合はきちんと考慮するつもりでいます。

製本直送.comではレーザープリンター特有のトナーのテカリがあり、何となくコピーっぽい雰囲気は否めません。表紙はラミネート加工していますが、良く見るとトナーの濃さによって凹凸ができています。KDPは恐らくインクジェットが使われていて、仕上がり自体はオフセット印刷に近いイメージがあり、比較すれば見栄えは上でした。また、精度的にもKDPの方が高い印象です。機械の差か技術の差かはわかりませんが、KDPはロイヤリティを含むと価格が高額になるので、品質が良くて当然だとも思えます。差と言っても微々たるものなので、実用性を考えれば製本直送.comの品質で十分であり、良心的な面を高く評価したいと思います。上述した冊子については最終の修正版を用意したので、早速製本直送.comに再度印刷依頼をかけました。

その後、新刊として作成した冊子「未来技術STORY」は文章主体だったため、再度KDPで出版可能か審査にかけてみました。原価がどれくらいになるのか知りたかったことも理由です。結果はすんなりと審査OKでした。最初からマージンを十分確保した上での制作だったので、予想通りではあったわけです。意外にも製本原価が非常に安くて、高いマージンを加えても十分満足できる価格に収まりました。そのため製本直送.comよりも安く販売できることになり、今回はKDP側のメリットに軍配が上がったわけです。サイズをB5と比較的大きなものにしましたが、ページ数が140ページ程度とやや薄いものだったので、これが価格に直接反映したようです。先に制作したコミックの場合は、サイズがB6と半分(面積では1/4)にも関わらず、倍以上のページ数だったためコストが高くなったのだと思います。従って、150ページ程度以下の冊子を出版するなら、個人的にはKDPがイチオシとなります。圧倒的な物量のおかげで、KDPではページ単価を低く抑えられるのでしょう。

更に今回の冊子制作を通して、マージン不足で却下となったコミック誌を救うアイデアを思いつきました。本のサイズをB6→A5と1ランク大きくして、B6のページを丸ごと(裁ち落としの3ミリも含む)入れ込むわけです。そのままでは異様に余白が大きくなるため、余白部分をグレーのワクで覆って本来のページ部分のみを目立たせるわけです。こうすればグレーのワク内にコンテンツが完全に収まることから、余裕をもってマージンをクリアできます。ページコストは紙のサイズよりもページ数が効くようなので、手間もコストアップも最小で審査を通せる可能性があります。印刷の場合、周囲の余白を想定よりも大きくとった方が全体のバランスが良いので、この変更を加えて再度チャレンジしようと思います。