■PDFによる書籍化

これまではEPUB形式で書籍を作る方法を紹介をしてきました。ところが、最近amazonで印刷本の出版・販売できるサービス(Kindle DirectPublishing ペーパーバック:以後KDPと略称)が始まったことを知り、電子化の流れに逆行するようですがトライすることにしました。電子書籍は色々な面で利点が多いのですが、紙の本ならではの利点と言うのも捨てがたい面があります。スマホやタブレット等のディスプレイではやはり目が疲れるし、画面を見ながら読むこと自体に少なからず抵抗もあります。我々のような古い世代は、むしろ印刷物の方が気楽に読めるとさえ感じるわけです。手元にあった書籍はほとんど処分してしまって棚もガランとしているので、少しくらい冊子があっても苦にはなりません。自分の書籍がリアルな冊子として手元にあるのは、何にも代えがたい満足感を得られます。

KDPでは売れた冊子に対して印刷代等が反映されるだけなので、初期費用はもちろんかかりません。既に電子書籍で出版していれば、すぐにでも冊子の本も出せるわけです。全くリスクが無いことから、逆にやってみない選択肢などありえないとさえ思います。ただし、電子書籍と違って紙媒体の本は印刷解像度が重要になることを忘れてはいけません。画面は普通は72dpi程度の低解像度ですが、印刷ともなれば300dpi以上の高解像度が必要です。文字データだけの書籍であればアウトラインフォントが使われるため、解像度の違いを意識することも少ないのですが、絵や写真等ではダイレクトに反映されます。ディザ等の補間技術でパッと見にはきれいに見せることができても、元の解像度が低いために細かい所が潰れたり、全体にボケたようなものになってしまうのは避けられません。あらかじめ高解像度で作成されていれば問題は無いものの、データサイズが大きくなり過ぎるとそもそも電子書籍化ができません(ダウンロード等を考慮して、書籍のデータ容量が制限されている)。この違いをまずはしっかりと頭に入れておく必要があります。

私が作った電子書籍は絵と文字が混在しているため、データ容量の制限にかからないように、画面表示で問題無い程度にページサイズを小さくしています。個人的にはですが、電子書籍ではコミック類はタテ1600ピクセルを目安に考えていて、これを300dpiの印刷にした場合、タテが約13.5センチのものまでなら同じように見えます。そうなると、サイズとしては文庫本(A6サイズ)に近いものなら違和感無くできそうですが、文字が中心では小さ過ぎて非常に読みにくいものになってしまいます。せめてB5サイズは実現したいので、データそのものを作り直さなくてはなりません。しかも、冊子化に当たってはEPUBでは無くてPDFで作られたデータが要求されることから、全面的な作り直しは避けられません。逆にPDFからはEPUBへの変換は比較的容易にできるので、印刷を考慮するなら最初からPDFを念頭に制作した方が賢明です。

このような事情で、どうしても解像度を上げた形でPDFによるデータを作る必要が出てきました。PDFに変換できるソフトとしてビジネス系でよく使われるのはMS WORDですが、グラフィック系の冊子も考慮すると本格的なページレイアウトソフトを使うのが最善です。そこで、adobe社のInDesignと言う出版社でも冊子の制作に使うソフトを利用することにしました。このソフトで元となる冊子のデータを作り、PDFに変換して入稿するのが印刷本制作の流れです。電子書籍と違って印刷物には様々なルールが存在し、KDPでは同社の定めたルールに従ってPDFデータを用意しなければなりません。表紙と本編部分は別々に制作し、各々をKDPのサイト(自分のアカウントを作成し、マイページにログインして各種操作)にアップロードします。

比較的ルールが明快な表紙について先に説明しましょう。上述したように印刷物は裁断時にズレが出るために、本来のページサイズよりも大きく作らなければなりません。通常は各辺に対して3ミリ余計にデザインすれば、ズレても問題無いようです。また、一般的な書籍の綴じ方として無線綴じと呼ばれる方法があります。これは本文ページをまとめて背側に接着剤を塗り、それに表紙と背・裏表紙を一体化したものをカバーのような形で挟み込む構造です。別に平綴じ(中央でホチキスで止める)と呼ばれる方法もありますが、この場合は一般的に50ページ以下(製本業者によって多少異なる場合あり)の薄い冊子に限定されます。無線綴じの背の部分に当たる横幅は、紙の厚さとページ数によって変わるため、KDPでは自動で計算して制作のための雛形を提供するサービスも行っています。雛形には裁断のための補正も含まれており、これをベースにして表紙ページ等を割り付ければ、適切な版を作ることができます。KDPの場合は冊子データアップロード後にチェックできるようになっており、裁断位置や各マージン等がわかるガイドも表示されるので、目視で確認することができます。同時に自動でチェックもされるため、大まかな問題はこの時点で修正できるわけです。ただし、細かな点までは自動チェックができないため、出版承認が下りるまでには人間による手動チェックも入ります。結構ハードルは高いので、電子出版に比べて困難が伴うことは覚悟しなければなりません。1点アドバイスすると、背表紙のデザインには注意する必要があります。文字を入れる場合は背部分の左右端より1.6ミリ以上内側に収まらなくてはなりません。たかが印刷物でそこまで厳密にしなくても良いように思いますが、KDPでは妙に規格的な数値にこだわります。重要なのはコンテンツだと思うのですが、利用する以上はKDPのルールに従わざるを得ません。

本編部分のデータは更に制限が厳しいので、あらかじめマージン関連は十分に余裕をもって制作することをお勧めします。電子書籍の場合は裁断も綴じも無いため大きな問題にはなりませんが、KDPでは自分達の定めたルールに少しでも違反があると絶対に審査が下りません。次項で詳細を記しますが、私自身が制作したコミック系の冊子はどうあってもクリアできず、KDPでの冊子化は断念に至っています。元々A4サイズの原稿を基本にデザインしたものなので、冊子化でB6サイズ(一般的なコミックスサイズ)にしたのには無理があります。そもそもソフト自体の制限もあって、あちら立てればこちらが立たずと、修正が膨大な量に及ぶため対応が困難だったこともありますし、原版が古い制作(個人的にはメモリアル的な本)なので今更そこまでする余力もありませんでした。
→ その後、他の業者で製本した上で別の販売チャンネルで出版。また、別途マージンを回避するアイデアを思いついたので、修正版を作成してKDPに再挑戦(KDP専用のプレミアム版として)しました。

新たな書籍ではそうした点も踏まえて、マージンを余裕でクリアできるように最初から企画しています。文字主体の冊子なので、ソフト側でいかようにも後で変更できるメリットもあります。そのために制作にはadobe社のInDesignを採用しています。これで冊子を作り、最終的にPDFに書き出せば完成です。ただし、印刷版はそれで良いのですが、電子書籍化するにはこれをEPUBに変換しなければなりません。それには1点問題があります。なぜなら期待通りにEPUB化できるソフトが無いからです。色々試しましたがどれも一長一短で、どれ一つとしてまともに同じレイアウトで出力できるものはありませんでした。仕方無いのでPDFの全ページを一度JPEGの画像化し、それをまとめてEPUBに変換して電子書籍化することにしたわけです。ところが、その場合は文字であっても画像になるため、端末のサイズによる文字サイズの最適化が行われず、文字が小さくて判読しにくいものとなります。解像度は大きくしてあるので拡大すれば大丈夫ですが、操作が煩雑でやや読み辛くなるのが難点です。JPEG画像をEPUB化するソフトは色々ありますが、お勧めするのはNODO epub makerLeMEです。どちらもシンプルで簡単にEPUB化できる優れたソフトです。前者は完全にフリーウェアですが、後者は最終ページにLeMEの著作権を示すページが入ります。これを無くすにはシェアウェア(2000円)を支払う必要があります。オーサリング時の登録状況を保存できるため、何度も修正を加えるような場合には手間が省けて便利です(NODO epub makerには保存機能無し→簡易的ながらバージョンアップで対応済)。いずれもKindle Previewer 3できちんと表示できたので汎用性は高いと思います。

JPEG画像をEPUB化したものでKDPの審査が通るのか心配しましたが、結果は問題なくクリアしました。雑誌等をそのまま電子書籍化したものも数多くあり、解像度さえ十分確保されていれば(拡大して鮮明に表示できれば)良いようです。レイアウトにもこだわるなら、InDesignのようなオーサリングソフトで制作してPDF化するのが最も適切だと考えられます。そのまま電子書籍化も比較的容易で、冊子版と電子版の両方を目指すなら、これが一番良い方法ではないでしょうか。ただ、画像としてEPUB化した電子書籍は必ずしも読みやすくは無いので、PDF版をそのまま使えれば一番良いわけです。因みに楽天koboの場合でも、同じ方法でEPUB化したもので大丈夫でした。楽天koboの場合は、コンテンツに著作権のある画像等が使われていないか厳しく審査されるので、むしろそちらに気を配った方が良いと思います。特に映像作品やゲーム、商品等のグレーな画像は却下の対象になります。ただし、異議申し立てで通る場合もあって、単なる警告の意味だけで著作者が問題無いことを保証すればOKのようです。(特に証明書類等は必要無いが、ゲーム等の作品のキャラクター類は絶対にダメ!)