■標準規格、EPUBを語る

ここからはEPUB形式とは何なのかを説明し、その後ツールSgilの使い方も含めて紹介することにします。EPUBとはWikiによると、国際電子出版フォーラム(International Digital Publishing Forum/IDPF)が策定した、オープンフォーマットの電子書籍ファイルフォーマット規格とのことです。呼び名はElectronic PUBlicationを略したもので、XML、XHTML、CSS、ZIPに基づいた規格であり、HTMLをベースとした形式となっています。ざっくり言えばホームページの延長のようなものを、ひとまとめにして圧縮したデータと考えれば良さそうです。実際、拡張子である.epubを.zipにして解凍すると中身を見ることができます。Webと同じ技術が使われていることから、今後も安心して読むことができる可能性が高まります。こうした共通規格ができたことで、これまでハードウェアに依存していたような電子書籍が、幅広い環境下で読むことが可能になったのは大きな福音です。

ただし懸念材料もあります。Webの技術はかなり標準化が進んだと言えますが、未だにブラウザ間の互換性の問題も完全には解消されていません。W3Cの定める規格もまだまだ流動的で、改訂の度に複雑化している気がします。そのせいか、EPUBにおいてもリーダーによって表示が異なっていたり予期せぬエラーが出たりと、なかなか思うような結果になりません。初期のWebと同じように安定性にはまだ疑問符が付く状態で、まだまだ紆余曲折が続きそうです。そういった課題を理解した上で、なるべく安定した表示ができるように電子書籍を作り込む必要があります。

現在一般的に使われる電子書籍のフォーマットは、EPUBの他にもPDFがあります。PDFは結構古い規格で、元は印刷物の電子化が発端です。そのため、書籍のように複雑で美しいレイアウトが可能で、あらゆるドキュメントが対象になります。しかし、このきっちりとしたレイアウトが曲者で、一方では読むための制限にも繋がっているわけです。例えば小さなスマホと大型のタブレットで同じ書籍を読む場合、前者は著しく読みにくいものとなります。表示エリアが狭いので当然ですが、レイアウトが固定されているために、読み手は拡大・縮小と表示エリアの移動で対処する以外に無いわけです。一方でEPUBは、表示するデバイスに合わせ、文章の折り返しやレイアウトが自動的に調整されます(あくまでもフレキシブルレイアウトで作成された場合で、EPUB形式自体が自動レイアウトを保証するわけでは無い)。そのせいでレイアウトが崩れたりするわけですが、本としては格段に読みやすくなります。レイアウトを取るか読みやすさを取るか、なかなか悩ましい問題ですが、普通はレイアウトよりもコンテンツの方が重要なはずです。例えば携帯音楽プレーヤーで気軽に音楽を聞くのと、リスニングルームのオーディオ機器でじっくり音楽を楽しむのとの違いのようなもので、前者のようなものと考えれば、よりリーズナブルな書籍の楽しみ方ができるわけです。

追って紹介しますが、PDFとEPUBの間では互いに変換できるソフトもあります。印刷冊子を作ることを考えてPDFで本を作り、変換して電子書籍も作るといった方法がとれるため、私自身は今はこの方法で取り組んでいます。ただ、PDF→EPUBは現時点においてはかなり難しいことのようで、まともに変換できるソフトは皆無でした。一手間かけて簡易的にEPUB化することはできますが、その場合はページを画像として扱うために、読みやすさを犠牲にする結果となってしまいます(十分な高解像度でページを作成すれば許容範囲、ただしデータ量が格段に増加)。どうやら、まだ印刷冊子と電子書籍に関しては切り分けて、別のものとして制作した方が良いように思います。そうは言っても、小説のように文章だけならば話は簡単ですが、一般の雑誌のような文章と画像が混在したようなものは、レイアウトの関係もあってなかなか判断が難しいところです。CSSの知識が十分あれば、EPUBでもある程度レイアウト等も凝ることはできるので、やはり本腰を入れて学習する必要がありそうです。