■電子ブックから電子書籍へ、終わりの始まり!

ユニークな電子ブックであるAD-BOOKの歴史を振り返って紹介して来ましたが、結局同じようなコンセプトのブックリーダーは他に生まれず、電子書籍の広がり自体も思ったより伸びていない印象があります。スマホやタブレットの普及によって手軽に本が読めるようにはなったものの、大多数の読者はそれ以上の機能を欲していないのかもしれません。ながら見のようにただ手っ取り早く読めれば良いと言うのが、最終的に電子書籍に求められる要素なのでしょうか。こうして紙の書籍の電子化に絞ったような単機能な電子書籍が溢れかえる中で、最近ではむしろ紙の本が見直されるようにもなって来ています。やはりリアルに手に馴染む紙の方が、ディスプレイ上に表示される無機質な情報よりも人間の感性に訴えかけるものがあるようです。すぐに手にとってどこからでも見られる印刷物は、インターフェースとしても優れているように思います。電子書籍は確かにメリットも多いのですが、見たい場所にたどり着くにはそれなりに何段階ものアクションが必要で、最善のものでは無いのも事実です。やはり紙媒体とは違う電子書籍ならでは利点が他にもっと無いと、単なる安易な表現手段で終わってしまう可能性が高いのではないでしょうか。ちょうど携帯音楽プレーヤーでMP3の圧縮音楽を聴くのと同じで、手軽さ以上でもそれ以下でもない代物と言うわけです。アナログレコードに注目が集まるのも、じっくり聴き込みたいニーズがあるからで、同じようなことが書籍にも当てはまるのかもしれません。

それと電子書籍の普及にはもう一つ問題があります。それは価格設定です。今はまだ電子書籍においても大手出版社中心で動いているせいか、電子書籍の価格も印刷冊子の価格も同じに設定されることが多いようです。本来データにしか過ぎない電子書籍は、制作にかかる費用以外にはほとんどコストがかからないので、一説には価格が1/3にはなると言われています。確かに自分の感触でも十分それくらいにはなるだろうと思います。ただ、我々が出版するような電子書籍は、どこかに頼んで販売してもらわないといけないのでロイヤリティがかかります。それがやはりKDP(amazon)のような大手となると法外なもの(KDPは70%)になってしまいます。つまり、場を提供しているだけに過ぎないのに、利益のほとんどを吸い上げてしまうわけです。何だか某人達が要求する店のみかじめ料のようではありませんか。

もしもこのロイヤリティが10~20%程度だったら、少なくとも個人出版等は劇的に価格を下げられるはずです。そうなれば、名も知れぬ人が書いた本もちょっと読んでみようかと言う気にもなります。例えば冊子なら500円するものが100~200円程度で買えるのなら、一般人にとって選択肢が大いに広がるのは確かです。どうせ数多の個人出版誌や同人誌のようなものは、一般の書店に出回ることは無い商品です。電子書籍として読者が広がるのなら、それはそれで良いのでは無いでしょうか。書籍に価格破壊が起きて全国の書店が潰れてしまうとも言われていますが、現在の流通の仕組みそのものに問題があるわけで、冊子と電子書籍が共存できる道を探れば良いのではないかと思います。むしろ書店が電子書籍を低いロイヤリティで直接扱って、冊子と共存する形で販売すれば、読者は自由に手にとって本を確認することもできるわけで、そもそも大手出版社の既得権益を守るために、価格維持を貫いていること自体、前時代的な取り組みとしか言いようがありません。

個人的には物理的な費用がかかる冊子は、価格が少々高くなろうとも、それだけの価値があると思っています。たとえ内容が同じであっても、手の届く所にあるモノとスマホやタブレットの中のデータでは全く異なるものです。むしろ冊子としての価値が見出せないような本であれば、電子書籍のみで販売すれば良いではありませんか。なぜ同列に扱わなければならないのか理解に苦しみます。それに冊子ならば何度も読み返したり、見たいページを開いてすぐに見られるメリットがあります。目にも優しいし、紙とインクの独特の香りはなぜか落ち着くものでもあります。電子書籍はまだまだ発展途上のものなので、これからもっと色々な取り組みがされて行くと思います。一方で、オンデマンド印刷の普及によって、小部数の出版コストも大幅に下がる傾向にあります。そうすれば我々のような小規模出版者にとっても、冊子の価格も下げることができて、電子書籍との価格差も埋めることができます。大手出版社も同じことで、この差が許容範囲に収まるような時代が到来すれば、後は読者が好みによってメディアを選択すれば良いわけで、全体的な価格は今よりも下がったところで均衡するのではないかと思うのです。

もちろん莫大な利益を追求する大手には、利益至上主義を捨てて新たな戦略を模索する必要があるでしょう。KDP等もロイヤリティをもっと良心的な割合に引き下げ、著者と読者に寄り添うようなものになるべきです。そのためにも、競合するような出版代行者が多数生まれることを期待します。電子書籍の始まりは冊子の終わりではありません。どちらもこれから新たな時代が始まるのです。どのような未来が展開されるのか、自分自身も執筆活動を続けながら見つめて行きたいと考えています。