■異色の電子ブック「AD-SoundPlayer」

AD-BOOKを総括したところで、これまでとは方向性の異なる電子ブックを付け加えておきます。正確には電子ブックとは言えないのですが、AD-BOOKシリーズと同じ技術を使い、サウンドに特化した形で実現したものです。それが「AD-SoundPlayer」でした。当時、自動作曲ソフトに興味があり、あるソフトを使って作った曲が20曲ほどありました。一方でAD-BOOKのサウンドを色々と模索していた時期でもあり、両者を合体させて音楽プレーヤーを作ったら面白いだろうと考えたわけです。プレーヤー自体もAD-BOOKと共に活用したいとの思惑がありました。とりあえずAD-BOOKの延長にあるものとして、起動用のプラットフォームも下図のようにAD-BOOKシリーズを踏襲したものになっています。

余談ですが、このプレーヤーの開発時期はAD-BOOK「SuperLite」と重なっており、そのプラットフォームに統合する形で同梱した時期もあります。見ることと聞(聴)くことは人間の五感の中で中心的なものなので、文章にしても絵にしても音楽とセットにすることは自然だと個人的には考えていました。例えばドラマやアニメの主題曲等が歌謡曲とコラボするのが普通になったように、小説やマンガ等でもテーマソングや劇中曲があって良いと思うのです。紙媒体の書籍では別途音楽CDを付け加えなければなりませんが、電子書籍なら一体化することは簡単なことです。映像文化とは異なると見られているのか、2021年の現在でもそうしたコラボを見かけることはほとんどありません。たぶん出版業界と音楽業界が別物だからなのでしょうが、電子ブックの時代には両者が歩み寄って新たな文化を創出して欲しいものです。

AD-SoundPlayerの外観は下図のように本とはかけ離れたものですが、AD-BOOKのコントローラーとページ表示部を一まとめにしたものと考えれば理解しやすいと思います。プレーヤー自体がJavascriptを含むHTMLドキュメントで作られていることから、例えばAD-BOOKの中の1ページにプレーヤーごと収めてしまうこともできるわけです。コンテンツの一部に利用することで、音楽の発信にも利用できると考えていました。サウンドについては以前にも触れたように、元々HTMLの機能の中には含まれていません。そのため、ブラウザであるインターネットエクスプローラーやネットスケープナビゲーター(当時のブラウザはほぼこの2択で、後者はFirefoxの前身でもある)は、独自に機能拡張してサウンドを扱えるようにしていたわけです。

利用できるサウンド形式は主にmidi、aiff、wavだったと思いますが、AD-SoundPlayerで扱えるのはmidiだけです。フルサポートも可能でしたが、簡単に扱えるように制限したと言う方が適切です。midiはコンピューターが内蔵する音源を使って音を再生するもので、ファイル自体はテキストファイルの一種です。デジタイズした音のデーターそのものでは無く、音を鳴らす手続きを記したものに過ぎません。通常の音楽のようなクォリティは望めませんが、データ量が非常に小さくて手軽に扱うことができます。当時のネット事情を考えれば、特にホームページで扱ったりするのに都合が良かったわけです。もっとも、作曲ソフトで作れるのがmidiの曲だけだったため、他に選択の余地が無かった事情もあります。実は音源はPCによって異なったりするため、環境が変わると意図通りに再生されない現象が起きます。それを避けるには、作曲時の音源を使ったデータを同じ環境で別の形式に変換する必要があります。今なら広く普及してデータ量も小さいmp3に変換して利用するのが望ましく、AD-SoundPlayerでのサポートもmp3にしたことでしょう。

AD-SoundPlayerはシンプルなプレーヤーですが、なかなか豊富な機能を備えています。下図は再生中のもので、左上部には主操作部(オプション機能、再生、停止)、右上部は画像表示部(固定/スライドショー)、下は登録曲リスト兼ダイレクト再生ボタンになっています。曲は最大で20曲登録可能です。普通はリストの曲名をクリックすれば聴きたい曲が再生され、終わると停止状態に戻ります。上の停止ボタンを押しても同様で、曲の再生中に他の曲を選択すればそちらを優先して再生します。曲のリストの右にはチェックボックスがあり、任意のボックスにチェックをすれば順にまとめて再生することができますし、オプションでランダム再生を選択しておけば、プレーヤーが無作為に曲を再生します。また、繰り返しを選択しておけば、一連の再生を繰り返し実行します。画像表示部は写真やイラスト等を固定表示、またはスライドショーとして一定間隔で切り替え表示します。画像は任意の画像データをいくらでも登録でき、3個の画像用フォルダーを用意してあるため、いずれかを選んでスライドショーを楽しめます。静かに音楽を聴きながら、まったりとスライドショーを眺めるのも一興ではないでしょうか。

ここでプレーヤーが実現するサウンドについて補足しておきます。やや技術的な話になりますが、サウンドはドキュメントの中にHTMLの拡張命令を埋め込み、ページを書き出す(表示する)際に音を鳴らすようにしています。とてもエレガントな方法とは言えませんが、HTMLは本来テキストをネット上で扱うように考えられたものなので、画像こそサポートされてはいましたが音や映像は対象外だったのです。インターネットの普及と共にこうした要素も扱う必要性に迫られ、エンターテインメントにも活用される現在の進化があるわけです。AD-SoundPlayerは当時の古い技術でサウンドを扱っているため、残念ながら現在のいずれのブラウザでも音を鳴らすことはできません。根幹部分のサウンド再生部分を現在のルールに合わせて作り直せば良いのですが、今となっては実現の余地はほとんど無いでしょう。→ 当時はそう考えていましたが、2022年にHTML5のサウンド機能に対応した改良版をリリース。詳細は追って解説します。

当時作ったAD-SoundPlayerがありますので、ここで公開しようと思います。ただし、古い環境でしか動作しないため、Internet Explorer 6でのみ使えるように制限をかけています。もしも実行できる環境をお持ちであれば、どんなものか実物に触れて体感頂けます。Javascript(アクティブコンテンツ)の動作を禁止している場合は、インターネットオプションの詳細設定で許可するようにして下さい。

→ AD-SoundPlayerを体験する。