■ネットでチラシ広告を見る「Sala」

AD-BOOKの可能性について考えていた頃、1つの方向性としてチラシ広告が目に留まりました。ちょうど本業のDTPでは店舗や企業のチラシ広告も手がけていたので、これをインターネット配信で見られるようにすれば良いのではと考えたわけです。当時はようやくネットでチラシ広告が見られるサービスが大手スーパー等で始まった頃で、単に広告を表示するだけのシンプルなものが主でした。多くがチラシをスキャンしてホームページに載せただけの荒っぽいもので、さほど注目に値するものではありませんでした。そこで、COSMOLIGHTでは先進的なチラシ配信を見据えて、AD-BOOKを応用したネット配信専用のビューワーの開発を目指すことにしたのです。それが今回紹介する「Sala(セイラ)」でした。販売のセールスを語源として、女性にもアピールするような名とロゴを採用しています。

ネットでのセキュリティを確保するために、SalaではPHPの技術を使って起動画面を表示するようにしています。Sala本体はローカルでも動作しますが、PHPはサーバー側で動作することから、結果的にSalaはネット専用となっているわけです。せっかくチラシ広告をネットで見られるのに、紙の印刷物と大差無いのではあまり意味がありません。Salaには広告を出している店舗のデータやホームページへのリンク等を備え、シームレスに様々な情報にアクセスできることを求めました。つまり、店舗と連携する形で、より多くの情報を発信することを目標に掲げたのです。

Salaのプラットフォームは他のAD-BOOKとは異なり、商品カテゴリに分かれた下図のようなメニューページになっています。見本イラストは少々ビジネス風ですが、これは複数のバリエーションを作って、あらかじめ選択できるようにしてあります。表示するのは実写真でも良いし、かわいらしい動物等でも良いと思います。サンプルでは簡単なアニメーションを使って、人間味のある雰囲気を演出しました。プラットフォームを開いた時、短時間にフキダシのメッセージを表示するので、時事に即したあいさつ文や特典等をお知らせする目的に使えます。

プラットフォームの根幹部分は他のAD-BOOKシリーズと同様で、最初にSalaの使い方や注意点等を確認できます。下部は店舗のカテゴリを示したボタンを配置していて、あらかじめ店舗(広告)のジャンルを絞り込んで見るようになっています。複数のカテゴリを扱う店舗なら、別々のカテゴリに広告を掲載して対応します。

元々ネットサービスとして考えたSalaでは、メインサイト上にアップしたSalaを直接見る場合は、このメニューを経由して見たい店舗のチラシ広告を訪問者が選択します。カテゴリには様々な店舗の広告が登録されているため、まとめてそれらの広告も閲覧できるわけです。一方、店舗のホームページ等からリンクで直接Sala上のチラシ広告を見る場合は、まるでその店舗専用広告ビューワーのようにふるまい、Salaの主画面で単独に広告を見られるようになっています。配信サービスはCOSMOLIGHTが行うため、各種メンテナンスも店舗側がする必要はありません。元々チラシ広告を作成する延長上でネットに掲載するサービスを想定していたことから、印刷会社と連携すれば各店舗に手軽に利用してもらえるだろうと考えていました。

もう少し詳しく説明しましょう。最初の構想では、契約する印刷会社から店舗や企業の広告作成を請け負い印刷(版下)データを作ります。それまでDTPで普通にこなしてきた仕事なので、この点は問題なく進めることができます。続いて、このデータを元に印刷会社は紙の印刷物でチラシ配布を、こちらはSalaを利用してネットでのチラシ公開を行うことになります。実際に印刷してチラシを配布するにはかなりのコストがかかりますが、ネットでの公開はそうした負担を大きく軽減できます。宣伝に十分な費用をかけられない小店舗などでは、特に大きなメリットがあるわけです。仮に両方で広告を打つにしても、ネットはプラスアルファ程度で済むので、広告主にはやはりメリットがあります。もちろんネットでの公開は知名度が重要な要素ですが、これは実店舗で顧客に宣伝してもらうことで解決すると考えていました。Salaの運用が軌道に乗るまでは、格安でネット公開を請け負う思惑だったので、お互いにWin-Winの関係で協力できると考えていたわけです。

作成したデータをネットに公開するためにコンバートしたりする作業が必要ですが、さほど時間も労力も必要無いため、こちらも片手間で作業できて都合が良いものでした。もちろんスキャンしたデータを送ってもらえれば、間接的な顧客からの依頼も受け付けられます。準備作業自体は簡単なものなので、PCの知識がある依頼者にはデータを直接アップロードしてもらうことも考え、サイトにはそうした仕組みも導入しました。当初は1件当たり月4回の広告掲載で3000~5000円程度を考えていたので、個人的な広告でも十分受注できる目標の計画でした。広告掲載による収入は、印刷データを請け負う際の値引きに反映できます。つまりコストダウンです。契約する印刷会社もメリットを享受できるわけで、机上のプランとしては関係する全員にメリットをもたらす仕組みであることは明らかでした。

ところがフタを開けてみると、話を持ちかけた印刷会社も広告を打診した店舗も反応があまり良くなく、協力を得られる状況にはなりませんでした。まだまだインターネットは一般に浸透していない時代だったので、構想を理解してもらえなかったのが一因だと思われます。一般の人々が今のようにスマホやタブレットで手軽にネットにアクセスするような状況でも無く、たぶんインターネットなどよくわからないと言うのが大方の見方だったのでしょう。大都会ならいざしらず、地方の小さなコミュニティの中では、その恩恵を十分理解することも想像することもできなかったに違いありません。実際、ネットにホームページを掲載している店舗など、まだほとんど無い時代だったのですから。

一方で、世間ではインターネットの普及によって印刷会社が淘汰されるような論調もあったので、当時の事情を考えれば我々は商売敵と見られても仕方が無かったかもしれません。こちらも技術開発には熱心でしたが営業は不得手なので、うまくコンセプト等を伝えられなかった点も敗因でした。もしも背後に大手のバックアップでもあれば、或いは状況は変わっていたかもしれません。いくら私が理想を説いたとしても、細るパイの中で必死に商売する人達には、胡散臭い夢物語にしか聞こえ無かったのでしょう。その後DTPから撤退するに至ったのも、こうした軋轢の積み重ねに他なりません。マンパワーがあれば、少なくともSalaの実用化にはこぎつけられたと今でも思っているのですが。

グチはさておき、プラットフォームから選択したカテゴリを通じて起動したSalaは、主ウインドウを開くと共に使い方を記したページを表示します。初めて訪れた方にも扱えるように、との配慮です。コントローラー下部の右ページ移動ボタンをクリックすると最初に登録された店舗の広告を表示します。見たい広告へ移動するには、コントローラーの左右ページ移動ボタンを使います。

下図が広告の表示例です。当時はディスプレイが小さかったため、このように余白が多い状況にはならず、一部のみ表示された状態が普通でした。Salaには拡大モードが搭載されているため、最初に表示するのは全体像を把握するための縮小版です。×1、×1.5、×2、×2.5、×3倍の表示が可能(広告のコンテンツやサイズによってあらかじめ決定)なため、拡大して細かな部分まで見ることができました。Salaの広告画像データは倍率毎に用意していて、×3倍サイズだとJPEGファイルでもデータ量はかなり大きくなります。当時の遅い回線速度とPCの能力では、高い拡大率を利用するのはあまり現実的では無かったようです。もちろん現在なら全く問題はありませんが。

2倍に拡大して表示したのが下図です。倍率はコントローラー内のインジケーターで確認できます。+、-ボタンで自由に拡大・縮小が可能です。スクロールは方向ボタンにマウスポインタを乗せると動作します。右ボタンなら広告が左に動いて右の部分を見て行くことができるわけです。方向ボタンの中央をクリックすれば、初期状態の表示位置に戻ります。主にチラシ広告を想定していたので、こうしたボタンを操作することで、見たい商品や価格等も素早く閲覧できたわけです。本当は現在のマップデータのようにマウスでの自由な操作が理想なのですが、当時の技術では実現できませんでした。

コントローラーの上部には、チラシ広告を出している店名を表示します。上にあるボタンを押すと店舗の詳細情報を表示し、住所や電話番号、営業時間等がわかるようになっています。店の写真と地図を乗せれば、リアルの店舗との橋渡しとなります。

店舗には様々なオプション機能を実装する構想がありました。例えばチラシ広告の商品をクリックしていくと、それを集計してリスト化したり合計価格を自動計算するような拡張機能が考えられます。Javascriptを応用すれば可能と見込んで、将来的には実装も視野に入れていたのですが、Salaプロジェクトが実現しなかったことでアイデアは発展しませんでした。それでもサンプルでは簡単な動的コンテンツを試すことで、検証作業の一端としています。多くの可能性を秘めたSalaは、広告主さえ集まれば稼動する準備はできていたので、あと一歩踏み込みが足りなかったことが悔やまれます。

コントローラーの説明に戻ると、右のパネルの中ほどにはSala独自の機能にアクセスするボタンがあります。例えば?ボタンをクリックすれば、使い方のマニュアルを表示して操作を再確認できます。他に登録されている店舗をリストから直接選んで広告を表示するナビ機能や、店舗のテーマソングと言ったゆかりの音楽を鳴らしたり、着目する広告を印刷することもできるようになっています。広告自体はJPEG画像を基本にしますが、HTMLドキュメントを使うこともできるため、広告自体を動的なコンテンツの対象にすることも可能です。チラシ広告の電子ブック化を目指したSalaは、広告の分野でもエンターテインメントのように楽しめる要素を備えていたわけです。

Salaでは、理論的にカテゴリ当たり9999もの大量の広告を掲載できます。カテゴリは他のAD-BOOKだと章に、広告がページに該当するため、基本的な考え方は皆共通だと言えます。各広告はページ移動ボタンで順に見て行くことができますが、目的の店舗の広告だけをすぐに見たいニーズも多いかと思います。そこでナビボタンをクリックすれば、登録してある全店舗(広告)のリストを表示するようになっています。着目する店舗からすぐに広告にアクセスできるので、非常に使い勝手も良くなっています。Salaなら店舗間の商品の比較も容易にできるため、人々の買い物の下準備にはまさに最適です。ここから店舗のホームページに直接移動することも可能なので、店舗側にとっては自身のホームページへと顧客を誘うツールにもなります。サンプルでは2店舗しか登録してありませんが、地域の大量の店舗を登録して一括して広告が閲覧できるようになれば、いずれ多くの人が利用できる便利なものになったことでしょう。

一方、大量の店舗が登録されると目的の店を探すのが大変になるので、将来的には検索機能を搭載して絞り込みが必要と考えていました。もっとも、当初見込んだ数十店舗程度の登録では必ずしも必要な機能では無く、緊急性はさほど感じてはいなかったので、あくまでも計画の中での話です。

Salaは店舗データを配列を用いて記述していましたが、プログラムが簡単になる反面で登録数が多くなると管理が困難になるデメリットがありました。そこで、最終的には大掛かりなデータベースと連携し、大量の店舗を管理するシステムへ発展させる構想だったのです。その前段階としてEXCELのCSVデータを利用できるようにしたのですが、データベース自体の知識が乏しかったこともあり、システム実現までには至りませんでした。ちょうどデータベースについて関心を持っていた頃だったので、あと半年~1年もあれば実装できたのではないかと思います。

当時はSalaの商用化に備えて、新たなドメインを取得してAD-BOOK.netの名でホームページも立ち上げていました。言わばAD-BOOKを主体としたサイトで、様々な実験や研究もそのサイトで行う計画だったのです。実際、Salaをこのサイトで運用する準備を進め、短期間ですが仮稼動させてもいました。他のAD-BOOKも一部で運用していたのですが、Salaの頓挫によって最後までサイトの知名度を上げることができませんでした。蛇足ですが、その頃はアフィリエイトと呼ばれる広告の仕組みも拡大していた時期で、そのサイトでも取り入れて活用の道を模索していました。その名残りがCOSMOLIGHTの旧コンテンツにも残っています。Salaとアフィリエイトがかみ合えば、サイトの運営にも弾みが付くと考えていたのですが、世の中なかなか思い通りにはならないものです。

古いデータを整理していたところ、Salaのプロモーション用サンプルが残っていました。そこでコンテンツの一部を伏せてビューワーの見本を公開しようと思います。当時は通信速度が遅かったため、広告画像のデータ量を小さく抑えざるをえませんでした。そのため画像がやや荒い点はご容赦下さい。古い環境でしか動作しないため、Internet Explorer 6でのみ閲覧できるように制限をかけています。もしも実行できる環境をお持ちであれば、どんなものか実物に触れて体感頂けます。Javascript(アクティブコンテンツ)の動作を禁止している場合は、インターネットオプションの詳細設定で許可するようにして下さい。

→ Salaを体験する。

Windows Xp機とIE6の組み合わせでローカルでの動作は問題はありませんでしたが、ネットを介して見ると店舗情報の一部で文字化けが発生していました。恐らく採用する文字コードの違いで、互換性の面での問題が発生するのだと思います。当時のブラウザで見ると、今のCOSMOLIGHTのホームページ自体も画像に太枠が付くなど問題が見られるので、改めて当時のWeb世界の変遷と混沌が脳裏をよぎります。