■AD-BOOKの原型、AD-BOOK「Lite」

実を言うと、最初のAD-BOOKがどんなものだったか定かではありません。前項でAD-BOOKの原点となったホームページを紹介しましたが、初期のコントローラーを改良し、目次(ナビ)等を追加したものが原型だと思われます。混在して残っていた資料を見ると、どうやらAD-BOOK「Lite」の名で登場したものが該当するようです。外観も前項で紹介したものによく似ており、恐らくこのLiteこそがAD-BOOKの本命なのでしょう。Liteはホームページでの実験を通して、その後に続くAD-BOOKシリーズの構造が概ね固まったものでした。一応電子ブックの体裁は整っていましたが、機能も使い勝手も洗練しているとは言いがたく、多くの課題を残していたことがわかります。初期の頃はまだ起動プラットフォームは無く、いきなりビューワー本体を表示する形態でした。下図が起動直後のブックウインドウです。スタンドアロンでも使えるものの、本来はホームページから呼び出して使うことが前提です。当時のモニターは正方形に近く、縦長表示に適したものだったため、下図の中央部分を縦に引き伸ばしたようなイメージで表示されていたわけです。そのため、紙の本に近い自然な感じで見ることができたと思います。その後、Liteの改良を通してプラットフォームからの起動に変更しています。

AD-BOOKは初期の頃から章とページで管理する本の形態を強く意識していたので、Liteにおいてもウインドウ上部に章のタイトルやページ番号を表示するようにしていました。メインとなるコンテンツはページ中央に配置し、コントローラーは下部に置いて、見やすさと使いやすさを両立したのです。非常にシンプルな形でまとめあげ動作も軽かったため、この電子ブックはAD-BOOK「Lite」と名付けました。ページ操作は最低限必要なものしか無く、進む、戻る、最初に戻るの3つだけです。読書の進行方向は最初から念頭にあったので、左に読んで行くか右に読んでいくかの区別をはっきりと付けるようにしました。左右の進行ボタンの大きさを極端に違えているのはそのためです。上図を見れば、左に読んでいく(縦書き文化)形になっているのがわかるでしょうか。

実際にページを開くと下図のように見えます。ワイドモニターに表示するとこうなりますが、当時の四角いモニターだと縦長でもっと自然な感じに見えたはずです。

ページ操作と言えるかは微妙ですが、Liteには上下のスクロールボタンもあります。当時はモニターサイズが小さかったことから、細かな文字でも読めるように一般的なA4やB5のドキュメントを表示しようとすると、縦に全部を収めるのは不可能でした。縦のスクロールは必須だったため、操作支援用にスクロールボタンを付けたわけです。1回クリックすると一定量まとめてスクロールするもので、マウスでスクロール操作するよりも遥かに操作が楽になりました。縦のスクロールボタンはその後のAD-BOOKシリーズでも標準装備しています。コントローラーに備わっているのは、他にナビ、オートの特殊機能です。ナビは本を便利に読めるようにナビゲートを行うもので、ボタンをクリックすると下図のようなナビページを表示します。

オートは自動ページ送り機能で、ONにするとビューワーが自動でページを送ってくれます。マンガのようにほぼ一定のリズムで読めるような本は、この機能でながら見ができるわけです。速度は5段階で選択できるので、自分の読書ペースに合わせて調整できます。Liteの改良によって、途中からマルチシーン機能が追加になりました。これは1つのページを複数種類用意しておき、選択的またはランダムにその1つを表示するものです。どちらを取るかは制作者の意図次第で、後に後継モデルのAD-BOOK「edia」でマルチモードに発展した機能です。マルチシーンによってストーリー作品であれば読む度に違った場面を楽しめ、カタログ等では異なる商品写真を見ることができました。

ナビは電子ブックに収められているコンテンツの章タイトル一覧を表示します。紙の本の目次に相当するもので、ページ番号が全体における累積ページ数を表している点も同じです。右の一番上にはページ移動機能が搭載されていて、ページ番号を入力すると直接そのページが開くようになっています。左のページ番号からおおよその当たりを付けることで、目的のページへ到達しやすくしています。その下にはオプション設定機能があり、上述した自動ページ送り機能の他にサウンド(BGM、効果音、ナレーション/音声)のON/OFFを設定します。AD-BOOKは最初からエンターテインメントでの利用を想定していたため、サウンドは必須機能と考えていました。AD-BOOKのコンテンツページはHTMLでも良いので、Javascriptと組み合わせてアクティブかつインタラクティブなページを実現できます。当時もフラッシュと呼ばれる映像を埋め込むことができたため、両者を駆使すれば電子ブックが単なる書籍にとどまらないことは明白でした。そこにサウンドが加わることは、私にとってはごく自然な流れだったのです。

Liteは一般的なホームページになぞらえて、下図のような構成でできています。開始ページは標準的なindex.html、ブック本体のプログラムはcontrolerフォルダ内に、01、02・・・で始まるフォルダは本の章に相当し、その章に含まれるページの全データが入っています。最初はあまり大規模の本を想定していなかったことから、最大章数が99章、各章の最大ページ数が999ページとなっています。これでも十分大きな数ですが、現在のAD-BOOK「ROOTS」等は理論的に最大9999章、各章9999ページまで扱えるようになっています。ページも章も続き番号で管理することで、ページ送り機能をシンプルに実現しています。Liteの場合はビューワーと本のデータが混在したような形のため、規模が大きくなると煩雑になることが予想されました。

AD-BOOK「Lite」はその後何回かバージョンアップを繰り返して改良を進めて行きます。その過程でフォルダをコンテンツ(データ)とシステムに分けて、より管理しやすくしました。Liteの最終版はAD-BOOKの集大成であるROOTSの原型になったもので、基本的な構成や機能はよく似たものとなっています。最初にスタートページに当たるプラットフォームを表示し、そこから本体であるビューワーを開く形態はこの時に生まれたものです。以下は改良型Liteのプラットフォームと起動したビューワー本体です。その後のAD-BOOKシリーズにおいて、極めて大きな影響を与えたことは間違いありません。


新たに導入した起動プラットフォーム


AD-BOOK「Lite」のブックビューワー

Liteの改良版は電子ブックとして一定の水準に達したと考え、追加機能として並行して開発していた音楽プレーヤーの「AD-SoundPlayer」(追って解説)をセットにしました。プレーヤーはLiteのビューワー同様にプラットフォームから直接起動して使用します。Lite自体が元々自身のコンテンツ発信用に作ったもので、追加したプレーヤーは言わばオマケ的なものでした。作品と作品中の音楽を1パッケージにすることで、エンターテインメントの新しい形を提起したわけです。最初はホームページでの利用が前提だったLiteも、途中からスタンドアロンでの使用へと方針を転換し、ここに電子ブックへの第一歩が記されることとなりました。

しかし、一方では次第にLiteに対して機能不足を感じるようになって行きます。AD-BOOKによってエンターテインメントを推進するためにも、更に多くの機能を追加する必要がありました。アイデアだけは豊富にあったので、新たな機能の実現に向けて舵を切ったのです。Javascriptの更なる応用には多くの試行錯誤が伴い、かなり実現困難な壁にも突き当たりました。そんな努力の甲斐あって、やがて大幅に機能を強化した「Super Lite」へと進化することになったのです。

最後に補足ですが、最初に表示するスタートページはホームページ内に配置しても良いし、電子ブックプログラムを直接起動するプラットフォームにも使えます。スタートページで1クッション置くことで、電子ブックの独立性を担保したわけです。当時はブラウザから別ウインドウを開き、その中でコンテンツを見せることが先進的でもあり流行でもあったのです。ポップアップと呼ばれるこの手法を、Liteでもいち早く導入したわけですが、後に大問題に発展することには全く想像が及びませんでした。詳細については後継のAD-BOOKシリーズ中で再び取り上げます。